ビルの谷間に貴重なオアシスをつくる ~立体的にお堂を積み重ねる~

場を積み重ねて空地を確保する

両国の京葉道路沿いにある名刹、回向院の境内地における堂宇群の建替えである。
求められたのは3つの場、すなわち僧侶や壇信徒が念仏修行を行う場および寺宝や過去帳を収蔵する場(=念仏堂)、壇信徒の控室であり交流の場(=客殿)、寺院の会計事務を司る場、経典や仏教の書物を収蔵・学習する場および修行中の僧侶が寝泊まりする場(=寺務所・書院・僧坊)である。


改修前の境内の様子 旧念仏堂と客殿が参道ぎりぎりに建っていた



行事があると参道は、車で埋まってしまっていた


これらの場は、別々の建物として元々この地に存在していた。
建物配置を考えた場合、それぞれ利用者が異なることから、既存の建物がそうであったように、外部から直接入れるようにすることが望ましい。しかし新たに要求された各々の場の面積は既存の1.5~2倍の大きさとなり、オーソドックスな伽藍を形成するように平面的に配置すると、ただでさえ狭い境内地の中に空地がほとんどなくなってしまうことになってしまうこととなる。

そこで、われわれは、堂宇が平面的に広がる利便性よりも、ビルの谷間にかろうじて残された空地を広げて、貴重なオアシスとして存続することのほうが重要であると考え、建築面積を抑えるために3つの場を立体的に積み重ね、参道を拡幅して広場とすることを提案した。



念仏堂の配置図



新念仏堂は参道に対して建物をセットバックし、かつピロティとして開放している



参道から続くオアシスとなる緑


外回廊で巡る立体伽藍

3つの場は性格が異なるため、それぞれの場に応じて構造形式を立体的に変えている。
遮音や防犯・防火の観点から周囲と隔離する必要がある念仏堂は、分厚いコンクリートの壁式構造として外部環境との遮断を図っている。一方、壇信徒が立ち寄りやすく、憩いの場所とする必要がある客殿は、周囲を大胆に開放した鉄骨造として外部環境との一体化を図っている。秘匿を守りつつも執務空間、居住空間としての開放性が求められる寺務所・書院・僧坊は、フィーレンデールを形成するブレース鉄骨造として居室に適した開口を壁に穿っている。

これらの立体的に重ねられた3つの場は、建物内部ではつながっていない。それぞれの場には、伽藍配置の堂宇と同じように屋外の回廊を通って出入りすることとしている。回廊が建物全体を巡り、立体伽藍を形成しているのである。








2019年10月01日