天空の極楽浄土

境内が都会のオアシスとなるべく、積み重ねることにより生みだした空地に積極的に庭園をつくりたいところであるが、1階に配置した念仏堂の前面は、行事や葬儀に対応するため、広場としておく必要があった。そこで建物全体が立体伽藍であることから、屋外回廊が巡る場所は境内地の延長と位置付け、広場の上に空中庭園を設けて参道とつながる竹を植えることとした。



竹林には七宝樹林に見立てた数珠柱が林立し、七色のプリズムを発する


空中庭園の竹林の中を通りぬける屋外回廊を念仏回廊と呼んでいる。回向院が属する浄土宗の宗祖法然上人は、念仏を唱えることで誰もが極楽浄土に行けると説いた。したがって僧侶や壇信徒は、歩きながらでも念仏を唱え、数珠を繰りながら何回念仏を唱えたか数えるのである。この念仏回廊には数珠に見立てた108個のスワロフスキーの珠が連なる宝樹を、竹林の中に54本混在させている。珠の数だけ念仏を唱えながら、回廊をぐるりと巡ると千念仏行を行ったことになるのである。大般若経には、「極楽浄土は七宝樹林に囲まれ、虹色に光輝けり…」と説かれている。この念仏回廊では、珠を数えながら念仏を唱えると、スワロフスキーのプリズムの輝きによる極楽浄土の世界が垣間見えるという設えになっている。



108個のスワロフスキーが連なり、数珠柱を形成する。数珠の中には仏像がレーザーで立体的に彫り込まれている


この竹林は、植物と工芸、そして建物によってつくられた極楽浄土である。建物と工芸だけではわざとらしいし、建物と植物だけでは物足りない。混在することによって生まれる非日常の世界観である。

建物を取り囲む竹林は、壇信徒のみならず、参拝に訪れる人や地域の人、さらにはビルの中で働く人々にも、都会における貴重な緑のオアシスを提供する。念仏回廊は、常時開放されており、自由に訪れることができる。ここを訪れる人は、客殿の中に一歩足を踏み入れれば、ここが東京の幹線道路に面するビルの谷間であることを忘れるほどの清涼なる憩いを得るはずである。



スワロフスキーのプリズムが信徒会館内に挿しこんでくる



竹と滝と七色のプリズムで表現する極楽浄土の世界






2019年10月01日|ブログのカテゴリー:極楽浄土