構造計画 ~EV塔を利用して客殿に開放感~

1階はご本尊を安置し、美術品等を収蔵するために、耐火性能に優れた壁で閉じた建物、2階は、庫裏と相対する南側は閉じつつも、東側・北側は竹林庭園と一体となるために壁をなくした、壁側と開口側がはっきりわかれる建物、3階は良好な居室環
境を確保するために、必要に応じて大きな窓を設ける壁と開口が混在する建物というように、この建物は階によって外部環境との関わり方が大きく異なる。

建物の計画は、空間形成と構造とを分けて考えて、構造はどのような空間にも対応できるように柱梁のラーメン構造などで構成する方法と空間形成と一体となって適材適所に構造を使い分け、合理的に一体化する方法とがある。

例えば、マンションやオフィスビル等ではラーメン構造でつくり、仕上げの間仕切り等によって、部屋の大きさや間取りを変化させる方法をとることが多い。このスケルトンインフィルという手法は、将来の部屋の間取り変更や一部だけの改修を容易にする反面、構造と空間形成をまるっきり切り離すため、空間形成に構造上の制約が生じたり、間仕切壁を構造的な耐力要素として使えないため、柱梁が大きくなったりする。

今回は、将来的に用途変更等を考えにくい寺院の建物であることや、南北方向の敷地の幅に制約があるため、できるだけ空間と構造との融合を図りたい建物であることから、空間形成と一体となって適材適所に構造を使い分け、合理的に一体化する方法を採用する。

今回建物の外部環境との関わり方を空間形成に反映させようとすると、建物の構造の考え方も、階ごとに分けて考えることとなる。


紫色の部分はS造のメーンフレーム、緑色の部分はサブフレーム、1FはRCでがっちり固めた


1階の念仏堂は、耐火性能に優れた壁で囲う必要があるため、壁の耐力を活かせる鉄筋コンクリート造とすることが合理的である。壁柱を用いて、堂内には柱型の出っ張りがでないようにする。

2・3階は、比較的開放的な空間としたいのと、特に2階は北側竹林に面して壁や柱を設けない大スパン構造としたいことから、軽量で自由度の高い空間がつくれる鉄骨造とする。2階の北側は、上部梁を3階の収納部を用いた1層分のフィーレンデールトラスとすることにより、13mの大スパン構造を実現する。また2・3階とも、空間的に必要な間仕切り壁部は、壁内ブレースを用いて積極的に耐力要素とし、鉄骨の柱・梁断面の軽減化を図る。

本建物にとって重要な要素である空中の竹林庭園は、その下を駐車場や屋外広場スペースとして自由に活用するため、無柱の片持ち張り出し(キャンティレバー)構造とする。4mの鉄筋コンクリートのキャンティレバーとなるため、コンクリートのクリープによるたわみ防止と、壁からの引張力強化のために、PC鋼線によるプレストレス緊張を行う。



ブレースで固めた南側の壁とエレベーターシャフト


検討の結果、構造のバランスを取るには南東の角に立つエレベーターシャフトが役に立つことが分かった。

通常、エレベーターシャフトは最低限の部材で作ることが多いが、ここでは1階を鉄骨鉄筋コンクリート造とし、2回以上のS造部分は部レースを入れるなどして固めて、地震時の水平力を受け持たせた。



EV部分の耐震壁と庇を支えない回廊のルーズホールの柱


回廊部分でも大きな検討が行われた。1つは、2階と3回に並ぶ直径76.3mmの丸柱である。
回廊部分だけを受け取るためのものとはいえ、細すぎる印象がある。

実はこの柱、3回上部にある屋根庇とは構造的に縁が切ってある。つまり、屋根庇は片持ち構造で、丸柱は3階回廊の鉛直荷重を受けているだけだ。それにより柱の負担を減らして細くした。

ガラス玉が連なる宝珠も、構造を考えるにあたり悩ませた。
これは片持ちの屋根庇と空中庭園のRC庇を引っ張り合う形となる。その力は1960N。

宝珠は施工の最終段階で取付となるため、鉄骨の立て方時に同じ力が加わるように仮の引張材を入れて施工した。


日中は緑が印象的だが、日が暮れて室内に照明がともると、そうした構造面での格闘の成果が浮かび上がる。
日が暮れて照明がつくと、外からも2~3階の壁の少なさが分かる。中央のEVは左の本堂と共有しており、空中回廊は2階、3階ともにわずかに傾斜している。



壁の少なさが際立つ夕景







2019年10月01日