鉄箱版築壁

計画当初より、調湿性や耐火性に優れ、安らぎを感じる土造りの建物は、納骨スペースに求められるビルディングタイプに近いと考えていました。そして、食物や宝物品のための蔵というイメージが強い荒土と漆喰で塗り固めた旧来の土蔵造りよりも、高松塚古墳にも見られるような古くから墳墓に用いられている版築造りのほうがよりふさわしいと考えていました。

しかし版築壁は厚みが50cmくらいないと成立しません。この厚みは納骨堂の必要スペースから考えると過剰に大きすぎます。

また永代供養墓である壇信徒塚において土がぽろぽろと徐々に崩れていくこともふさわしくありません。

セメントを混ぜて固めるという方法もありますが、それでは本来の調湿性や安らぎが損なわれてしまいます。
これらの課題に対し、筒抜けとなった鉄箱部分に土を込めるという方法は、土の厚みを抑えることができ、かつ崩れやすい角部を鉄板が守ることとなる画期的なアイデアだと思われました。早速、実現に向けて版築研究所の畑中久美子さんを介して久住有生左官に相談を持ちかけ、相性のよくない鉄と土の食いつきを補うための異形鉄筋ブレースの入れ方や、土を固める圧力のかけ方、型枠のつくり方などを細部にわたって話し合い、1枡分の鉄箱のモックアップで実証を行いました。

実証の結果、鉄箱内の壁の厚みは15cmで大丈夫でした。施工方法は箱の内側に型枠をはめ込み、外側から45×120の木材をせき板にして上から叩き込むように箱に土を詰めていきます。1枡で木材を3段積み重ね、最後は横から土を叩き込みます。こうして鉄箱の枠内に4層の版築壁をつくります。作業としては決して楽な方法ではないのですが、小分割であるため、風雨による崩れのおそれがないことや、施工状況が確認しやすいこと、土木的な作業となる従来の版築工事と比べて、少人数、小スペースでできることなどから、墓地内の作業としては適した方法であったのではないかと思っています。

鉄箱の中に土がぎゅっと詰まった様は、独特の安定感とやさしさが感じられ、調湿性や耐火性の獲得とともに、壇信徒塚に求められていることが、視覚的にもうまくあらわれています。



鉄箱による構造体とデッキプレートと鉄板による屋根



そこに土を詰めていく様子


墓地内で騒音を出すことははばかられるため、鉄箱はほとんど工場で製作し、墓地内では据え付けるだけとしました。設置場所は墓地の奥、中央通路の突き当たりです。通路正面は参拝対象となる阿弥陀如来像を祀ることとし、設置場所に奥行きがないため納骨スペースを2棟に分け、中央に向けて45度の角度で回転し、阿弥陀如来に守られるようにしました。

上部には建物全体を覆うように、4m×8mの屋根を架けています。墓や塚の延長で造られているこれまでの壇信徒塚には、屋根と認められる形態がありません。したがって屋根については、その必要性や大きさ形状をかなり迷い、お寺さんも交えてスタディを繰り返しました。

最終的には、阿弥陀如来像に天蓋を設けた方が良いという考えに至り、それであれば納骨スペースも阿弥陀如来の傘の下に入れてもらって守ってもらったほうがよいだろうと思い、佛天蓋に見立てた屋根としました。天蓋(傘)であるため、鉄箱から33mmの丸鋼で浮かぶように支えています。屋根自体はデッキプレートを4.5mmの鉄板でサンドイッチすることで平面剛性を確保し、最大2mの張り出しに対し59mmの薄さとして、傘であることを強調しています。



完成した檀信徒塚 鉄箱から浮かぶ佛天蓋






2019年10月01日